経済産業省にエンジェル税制拡充の提言書を提出

経済産業省を訪問。
新規産業室と産業資金課から6名の方が丁寧に対応いただきました。
私からは以下の要望書を提出。
趣旨はエンジェル税制の拡充です。
設立3年未満とされている、総所得から控除できるエンジェル投資の要件について、証券会社が投資勧誘を行う場合に限り緩和するといいう案。
目的は世界的に技術力ある中小企業へのエクイティ資金の供給拡大で、日本の成長力を高めること。
未公開株詐欺事件の急増もあることから、情報開示が徹底されて証券会社が審査を行っていることを条件として、エンジェル税制を拡充すれば、透明性の高い中小企業投資を広げることができるはずです。

新規産業室のご意見としては、エンジェル税制の当初目的を考えると、年数制限を撤廃するのは困難で、新しい中小企業投資促進税制を考えた方が良いのでは・・・とのこと。
要望書の方向は、政策課題と合致しているので、何かアイデアを出してみたいとのことでした。

中小企業に対するエクイティファイナンスによる資金供給の円滑化について

経済産業政策局 御中

平成22年4月12日
ディー・ブレイン証券株式会社

公認会計士 出 縄 良 人

1 中小企業の資金調達環境の現状

 わが国中小企業の資金調達は地域金融機関からの借入金への依存度が高い。米国の中小企業と比較しても純資産比率が低いのが特徴と言われ、ROEは高いが脆弱な財務基盤で倒産しやすい傾向にある。上場会社がエクイティファイナンスを活用して自己資本を増強しているのに対して、中小企業においては、一部の上場準備企業を除き、エクイティファイナンスを行っていないのが実情である。
 一方、地域金融機関については、優良企業に貸し出しを集中する傾向があり、本来、資金が必要な企業に資金供給が十分に行われない。昨年施行された中小企業金融円滑化法によって、返済猶予によって返済負担が軽減され一時的に資金の余裕ができた中小企業においても、返済猶予期間終了後の返済によって資金繰りが一気に悪化することも想定される。

2 エクイティファイナンスの分類

 中小企業の行うエクイティファイナンスについては、横軸に私募型と公募型、縦軸に事業投資型*1と金融投資型をとる4象限に分類できる。一般に未公開企業として行う私募のうち、縁故増資または事業提携先等への割当は資本的投資。VCからの投資は創業期のベンチャー企業に投資を行う長期育成型投資の一部を除き、上場等による売却益を目的とすることから投機的投資に分類される。
わが国の金融商品取引所への新規上場時に行われる公募増資、特に1999年以降拡大した新興市場の新規上場においては、圧倒的多数の投資参加者が初値売却による超短期利得を目的とした投機的投資である。一方、グリーンシート制度*2を利用して証券会社が行う募集では、資本的投資を集めることを目的とした公募が多く行われている。また、譲渡制限付店頭取扱有価証券制度*3を利用した証券会社募集においても、同様に資本的投資を募集した事例*4が発生している。

3 コミュニティ型募集による資本的投資の勧誘

 従来、証券会社が行ってきた株式の投資勧誘は、主に投機的投資を目的とする金融商品投資に関心をもつ顧客を対象としてきた。しかしながら一般には株式投資に関心を持つマーケットと特定の発行会社またはその事業に関心をもつマーケットでは重なるところが少ない。
特定の発行会社またはその事業に関心をもつマーケットは、発行会社の周辺に形成されている。具体的には発行会社の顧客、取引先、提携先、役員従業員及びその家族や知人友人等であり、ここではこれを「発行会社コミュニティ」と呼ぶこととする。これに対して株式投資に関心を持つマーケットは証券会社の顧客となっていることから「証券会社コミュニティ」と呼ぶこととする。
証券会社コミュニティにおいては、発行会社の事業そのものよりも投資から得られるリターンとリスクに関心を持って金融商品選択を行う傾向にある。上場会社4,000社をはじめとする多くの金融商品が存在するわが国において、一般に新興市場に新規上場する中小企業の発行する株式の金融商品としての魅力は、東証一部上場企業と比較すると相対的に低い。そこで新興市場の新規上場においては、公募価格を低めに設定することにより短期売却に伴う利益を得やすくし、投機的な投資対象としての魅力を高めることにより資金を集めてきた。その結果、新興市場の上場会社においては、投機的個人投資家の持株比率が高まる傾向にあり、それが短期的な株価上昇を求める圧力となって、長期的視点にて行うべき経営の足かせとなっているとの指摘もある。
発行会社コミュニティにおいては、発行会社への関心のもち方は様々であるが、投資から得られるリターンは目的ではなく結果であるとの理解により投資をするケースも少なくない。グリーンシート銘柄として募集を行っている事例としては、FC加盟店180店が平均50万円を出資して9千万円の調達を行った学習塾*5、顧客ユーザー約100名が出資して1億4千万円を調達した外国製バイク専門店チェーン*6、地元商工会議所の経営者仲間と取引先経営者が参加して1億3千万円を調達した精密金属加工のメーカー*7など、個々の発行会社コミュニティを対象とした募集が行われている。現在グリーンシート銘柄としての株式公開を準備しているフィットネスクラブでは、3万人の会員顧客を対象とした株式募集を計画している。
尤もこのような発行会社コミュニティを対象とした株主づくりは上場会社においても行われている。主に株主優待制度を利用して鉄道会社が沿線の顧客を対象に株主を集めている事例や遊園地を経営する会社が固定客を獲得する手段としている事例等がある。ただし、流通市場における株主作りが一般であって、発行市場における募集対象としているケースは少ないと考えられる。
企業経営者にとっては必ずしも投機的投資家を株主として求めるわけではなく、むしろ長期に渡り安定的に企業経営を支援いただく株主が望ましいと考える傾向にある。経営者の観点からは、証券会社コミュニティを対象の株式募集よりも発行会社コミュニティを対象の募集が好まれる傾向が強い。コミュニティ型募集においては、会社は株主たる発行会社コミュニティの皆の共同事業であるとの意識を経営者が持つことが基本である。
経営者が株主から経営を委任されて、株主のために経営するのはどちらのコミュニティを対象とする募集も同じであるが、証券会社コミュニティの株主の目的が一般には株主の金銭的な利益にあるのに対して、発行会社コミュニティの株主の目的は会社の事業目的そのものであることが多い。経営者は株主の金銭的利益のために働くべきか、事業目的たる顧客の喜びのために働くべきかとの問いに対しては、後者と答える人が多いと考えられ、株主の目的と事業目的が一致する発行会社コミュニティ対象の募集は、社会が求める理想の株主と経営の関係に近いと思われる。

4 コミュニティ型募集に証券会社が介在する社会的意義

不動産取引においては、宅地建物取引主任あるいは不動産鑑定士等の専門家が取引に介在することによって取引の透明性・健全性が保たれている。一方、株式の取引においては、上場株式以外においては、不透明な取引が行われることも少なくない。特に最近は未公開株詐欺事件が多発しており、透明な取引環境を整備することは極めて重要と考える。
1997年の未公開株式の投資勧誘解禁の趣旨は、金融機関の貸し渋りを背景に、未公開企業に対する資金供給を証券会社が担えるようにすることにあった。証券会社に未公開株式の投資勧誘を禁止しているのは情報開示が行われていないことにその理由があったことから、上場会社に準じた情報開示を行う未公開株式について投資勧誘を認めたものである。今日、経済情勢が厳しさを増す中で、中小企業の資金調達環境はさらに悪化している。日本の大手企業の下請け構造にあり、その技術を支えてきた中小企業は多く、日本経済が世界に向けて成長力を持つ鍵は中小企業が握っていると思われる。これらの中小企業の多くは未上場会社である。これら未上場の中小企業に幅広くエクイティ資金を供給できる可能性を持つのが発行会社コミュニティを対象とした募集と考えられる。しかしながら未上場株式の募集取引において透明性が低い状態では健全な発展が見込めない。透明性を高めるのが公認会計士監査制度等により客観性を高めた情報開示であり、取引の健全性と安全性を高めるのが専門家としてこれに介在する証券会社の存在である。
既存の制度として、上場会社に準じた情報開示を条件に証券会社に投資勧誘が認められている未上場株式は、グリーンシート銘柄、フェニックス銘柄*8及び譲渡制限付店頭取扱有価証券の3種類である。このうち上場廃止銘柄が対象となるフェニックス銘柄を除く、グリーンシート銘柄と譲渡制限付店頭取扱有価証券の二つの制度については、今後、発行会社コミュニティを対象とする募集が積極的に推進されることにより、日本の未来を担う中小企業にエクイティ資金が円滑に供給できる環境が整備されるべきと期待する。

5 コミュニティ型募集の発展のハードルと対処策

現在、グリーンシート銘柄は64銘柄に留まり、譲渡制限付店頭取扱有価証券制度を利用したコミュニティ型募集は1銘柄に留まる。これらの制度が発展する上での現状のハードルは以下の通りである。

日本証券業協会の制度上の課題

日本証券業協会(以下「協会」という。)の規則はそもそも、主として金融商品投資を目的とする個人投資家を保護することを目的として用意されており、コミュニティ型募集の形態に証券会社が介在するケースを想定していない。日本証券業協会としては制度の悪用を想定して、1年未満の創業期の企業のグリーンシート銘柄指定を認めない運用を行う等、規制を強化する傾向にある。
今後、日本の成長力を取り戻すために、中小企業に健全なエクイティファイナンスを広げ、その役割を証券会社が担えるような制度づくりをしていただくことを望みたい。

②エンジェル税制等の税制上の課題

 エンジェル税制については設立3年以内の会社を対象として、一定の条件により投資額を総所得から控除できる優遇措置Aのほか、グリーンシート銘柄のうちエマージング区分には優遇措置Bが利用できるようになっている。
 しかしながら、優遇措置Bは株式譲渡益との通算を認めるのみであって、上記コミュニティ型募集に参加する投資者が、株式売買を積極的に行う投資家ではないことが一般であることから、効果が低い。また、世界的な技術力が評価される日本の中小企業の多くは設立3年以上であることから優遇措置Aは利用できないケースが多い。
 一方、エンジェル税制のむやみな拡大は、税収確保の観点から慎重であるべきことは当然であり、未公開株詐欺への悪用も懸念されるところである。
 そこで、優遇措置Aについて、証券会社が投資勧誘を行う未上場株式(グリーンシート銘柄及び譲渡制限付店頭取扱有価証券)に限定する歯止めをかけながら、設立3年以内の条件を緩和し、広く中小企業に広げることを要望する。この方策によって長年大手企業の下請けに甘んじてきた技術力ある中小企業等にエクイティファイナンスの機会を広げ、自立して積極的に海外に進出する等の成長を後押ししたい。

エクイティファイナンスに関する啓蒙・教育

 これまでの証券投資教育は主として、流通市場を中心とする株式売買取引に関する教育が中心であったが、株式会社の仕組み、株式と経営の関係、株主になることの意義、その権利と責任等について、広く学校教育及び社会人教育の場において学ぶ機会を提供し、健全な資本主義経済の発展に資することが重要と考える。

以上

*1:ここでは、売却等により金銭的な利益を得ることを目的とする株式投資を「金融投資型」、株主として事業に協力あるいは支援もしくは共同で事業を行うことを目的とした投資を「事業投資型」と定義する。

*2:日本証券業協会が「グリーンシート銘柄及びフェニックス銘柄に関する規則」に定める制度。上場会社に準じた継続開示と一定の証券会社の審査を条件として、証券会社が継続的な気配提示を行うことを条件に未上場株式について投資勧誘を行うことを認めている制度。金融商品取引法においては株式が流通することを前提に「取扱有価証券」として、インサイダー取引規制等、取引所上場有価証券に準じた不公正取引規制が規定されている。

*3:日本証券業協会が「店頭有価証券に関する規則」に定める制度。投資家、発行会社及び証券会社の三社契約において、上場日の前日まで(最長2年間)継続所有を約することを条件として、未上場株式について証券会社に投資勧誘を認めている制度。発行時開示のみ上場会社に準じた開示を求めている。証券会社の審査は制度上義務づけられていない。

*4:平成21年12月〜平成22年3月にかけて行われている株式会社Long Tail Live Stationの募集をディー・ブレイン証券が取扱っている事例では、同社が同制度による募集取扱に関する審査規程を内規で定めた上で審査を行い、有価証券届出書を開示して募集を行っている

*5:株式会社名学館(証券コード2455)

*6:株式会社ダッツ(証券コード3336)

*7:株式会社マルマエ(証券コード6264)グリーンシート銘柄指定後に東証マザーズに上場。

*8:日本証券業協会が「グリーンシート銘柄及びフェニックス銘柄に関する規則」に定める制度。上場廃止企業について一定の条件を満たすことで証券会社に投資勧誘を認めている。