基礎力で勝負の年

新年あけましておめでとうございます。


昨年は経済環境の急速な悪化で、厳しい1年だったという方も多かったことでしょう。
しかし不況の副産物もありました。

以下は私が昨年お会いした中小企業のほんの一例です。

1.自動車部品の加工会社のA社。
 これまでは大手自動車メーカーの完全孫請けで、注文をこなすのが精一杯。ところが自動車
 不況で受注が激減。初めて営業活動を行ったところ、技術力を評価した家電メーカーから新
 規受注。不況を機会に取引先が広がった。

2.賃貸住宅の管理とビジネスホテル経営を行うB社。
 出張減少でホテル利用客が減少。そもそも競争激化で採算が悪化していたところだったので
 思い切ってホテル事業を売却。賃貸住宅管理に経営資源を集中するとともに人員削減による
 スリム化で、黒字体質に転換した。

3.パッケージソフト開発のC社。
 売上低迷で営業キャッシュフローが減少。銀行借入の返済負担が重く、経営改善計画を作成
 してリスケを要請。返済額の大幅削減により生まれる資金で新規のソフトウェア開発に着手
 できた。



昨年のテーマとして、私が掲げたのは「変化と対応」。
自らも果敢に変化し、劇的な環境変化に対応することでした。
そして、その先にある今年のテーマは「基礎力」です。
新たなる成長に向けて、その力となる礎を固める年。
そしてその礎を支えるのは「人」です。

投機的投資が中心の新興市場IPOが低迷する環境下、あるべき姿は「コミュニティ型」IP
Oです。
これからの日本経済の成長を担う成長中小企業にとって集めるべきは、投機的投資ではなく資
本的投資。
資本的投資を支えるのがコミュニティ型の資金調達*1です。
そのインフラの一つが「グリーンシート」に他なりません。
金融円滑化法が施行され、金融機関が中小企業の資金繰り支援を強化する中、ディー・ブレイン
コンサルティングでは経営改善計画にコミュニティ型資金調達を織り込み、返済猶予後の返済
原資をつくるサポートも開始しました。


本年も引き続き成長意欲をもつ中小企業の支援に注力していく所存です。
引き続きご指導ご鞭撻賜りたく、宜しくお願い申し上げます。


平成22年元旦

*1:2009年12月31日の日記を参照

コミュニティ型資金調達

激動の2009年も大晦日です。
金融危機政権交代
当社も「変化と対応」をテーマに掲げ、中小企業にエクイティファイナンスを広める絶好のチャンスと、自らも果敢に変化すべく挑戦した1年でした。

会社のファンを株主として募集してきたグリーンシート

資本的投資を公募で集めるグリーンシート
従来の投機的資金ではなく、会社を応援する株主を募る場です。
2009年2月にグリーンシートに株式を公開したアメニティ。
この会社は飲食店等のトイレを診断して改善する専門サービスを行うユニークな事業を展開しています。
全国にFC加盟店を広げており、グリーンシートの募集では加盟店を主な対象に募集を行いました。
全国に個別指導学習塾をFC展開する名学館も同様の募集を行っています。
本部と加盟店が対立しがちのFCシステムで、加盟店が株主となると、加盟店は本部の利益のために頑張ろうという気持ちになり、本部は株主たる加盟店を大切にします。WIN−WINの関係作りに極めて有効です。
全国に3万人の会員を抱えるフィットネスクラブのF社。
現在、グリーンシート株式公開準備中です。
グリーンシートでの募集戦略は会員を対象とした募集。
仮に会員1人に1万円の株をもっていただくと3億円の資金調達になります。
株主となった会員は「株主会員」として、株主会員割引や株主会員特別コース等の特典(株主優待)をつけます。
株主となった会員は他のフィットネスクラブには移りにくくなるとともに、利用頻度も高まります。
友達を会員に誘っていただく効果もあるでしょう。
資本戦略と事業戦略を一体化した成長戦略が描けるのです。
このような募集の特徴は、「コミュニティ型」の募集と言うことができます。
公募ですから誰でも投資参加はできますが、中小企業の株式ですから、金融商品としての魅力は4000社もある上場会社や投資信託等の商品に劣るのは当然です。
とすると、金融商品として関心をもつのではなく、その会社の株主になることそのものに関心を持つマーケットに募集をする必要があるのです。

グリーンシートはコミュニティ型IPO

そのマーケットこそ「コミュニティ」です。
どんな会社にも、大なり小なりその会社を取り囲む「コミュニティ」が必ずあります。
それは顧客、取引先、提携先、社員とその家族、経営者の友人知人、地域など様々です。
グリーンシート経由でマザーズに上場したマルマエ。
半導体製造業向けの精密部品を加工するこの会社は、鹿児島県出水市に本社があります。
1億円強を集めたグリーンシートでの募集に参加したのは、地元の商工会議所の経営者仲間と仕入先・外注先の経営者です。
さらに、BMWのオートバイ専門店を展開するダッツの場合、募集の対象としたのはBMWの愛好家です。
グリーンシート株式公開記念ツーリングを開催し、白樺湖畔に集まったライダーに株主募集の説明会。
会社の様々なタイプのファンが集う場が「コミュニティ」。
そのコミュニティに向けてIPOをするのがグリーンシートです。

いろいろな「コミュニティ型資金調達」

グリーンシートを使わなくても「コミュニティ型資金調達」は可能です。
金融商品取引法では、有価証券を50人以上に投資勧誘をする場合、1億円以上の募集をするには「有価証券届出書」の提出が義務付けられています。公認会計士の監査を2期以上受けなければならず、中小企業にはハードルが高いと言えましょう。
しかし、逆に、1億円未満の募集であれば、自由にできるというのが金融商品取引法の規定です。
財務局に2枚〜3枚程度の書式の「有価証券通知書」さえ出しておけば良いのです。
ということは、証券会社を通さずに自ら「コミュニティ」を特定して募集を行うのであれば、コミュニティ型資金調達を株式を使って行うことができるのです。
さらに、数年前に中小企業に広がりを見せた「少人数私募債」も、「コミュニティ型資金調達」の一種です。
この場合は「社債」ですので、返済(償還)が必要ですが、募集対象は取引先や経営者の知人等、「コミュニティ」なのです。
このほか、事業組合等の基金を組成して、その出資者を「コミュニティ」から募集する方法もあります。関西を地盤に賃貸住宅の管理を行っているL社では、コインパーキング事業の一部を基金(組合)として分離。この組合に賃貸住宅オーナーが出資をする形の「コミュニティ型」募集で5千万円を調達しました。
基金を利用する募集は行う場合には、業務執行組合員等には原則として金融商品取引法により第二種金融商品取引業者の登録が求められます。ただし、適格機関投資家が出資を行う場合(適格機関投資家等特例業務)や他の金融商品取引業者が募集するケースにおいては、第二種の登録は不要です。

眠っている周りの資金を生かす

コミュニティ型資金調達の社会的意義は、眠っている資金の活用にあります。金融機関に集まった預金が資金を必要とする中小企業に回りにくくなっている状況下、預けているお金を直接、企業に投資していただくことが重要です。つまり「間接金融」から「直接金融」へのシフトです。
中小企業では、目の見えない投資家から資金を引っ張ってくるのではなく、身近な「コミュニティ」のもつ預金の一部を直接投資していただくことで、新たな資金循環を起していくことが重要です。
間接金融という大動脈が動脈硬化となっていることから、「直接金融」というバイパス手術で血液を流すことが必要と言うところでしょう。

返済猶予とエクイティファイナンス

金融円滑化法で返済猶予に金融機関も対応していただきやすくなりました。
しかし、それでもいつかは返済しなければならないのが借入金です。
公認会計士ネットワークを持つ当社でも、返済猶予の申込に必要な「経営改善計画」の作成を指導する業務も増えているところですが、ここで重要なのはキャッシュフローをプラスとする事業戦略・コスト戦略とともに、返済猶予後の返済原資を生む財務戦略です。
ここに当社ではコミュニティ型募集によるエクイティファイナンスを組み合わせる提案を行っています。
資本を充実させることで、財務体質を大きく改善し、金融機関への依存度を下げる。
強い中小企業が、未来の強い日本を築いていくのです。

譲渡制限付店頭取扱有価証券

日本証券業協会の「譲渡制限付店頭取扱有価証券」制度を利用した未上場株式の募集を、ディー・ブレイン証券として初めてスタート。
取扱う銘柄は「Long Tail Live Station」(略称LTLS)です。
バンダイ社長の山科誠氏が、BSイレブンの社長を退任し、今後の半生をかけて取り組むと宣言し、社長に就任されました。気合が入っています。
LTLSは日本の貴重なアナログ映像をデジタル映像化してインターネット配信する事業です。著作権を保護しつつ、デジタルアーカイブ化する権利のみを取得する方式によって、動画コンテンツの調達コストを大幅に引下げて配信するビジネスモデル。デジタル化に伴う映像の再価値化を実現するとともに、新たな動画検索エンジンを開発し、動画配信インフラを社会に広げる計画です。
「譲渡制限付店頭取扱有価証券」制度は、投資家、発行会社及び証券会社の3社契約によって、募集後2年間または上場するまでの間、投資家が株式を継続保有することを条件として、証券会社に未上場株式の投資勧誘を認める制度です。発行時にはグリーンシートと同様の開示を義務づけています。グリーンシートとの違いは流通市場を持たないこと。証券コードの付番やTDnet開示などは行われませんが、証券会社に口座を開設して募集を行うことができます。

拡大縁故募集を中心の募集戦略を前提とするのであれば、そもそも長期保有が目的ですから、グリーンシート制度を利用しなくても「譲渡制限付店頭取扱有価証券」制度で十分というケースも、今後増えてくるかもしれません。

投機的投資と資本的投資

表参道のダイヤモンドホールで、明治安田生命の交流会に参加。
参加者は120名ほどで、基調講演はヤマト運輸の3代目の元社長の都築氏。
宅急便の生みの親の一人です。
倒産の危機にあった大和運輸だからこそできた大変革が生んだのが宅急便。
経済危機の今は、まさに、その変革のチャンスということでしょう。

続いて10分間、私からGSの説明。
テーマは「グリーンシートを活用する資金調達とVCのEXIT戦略」。

エクイティファイナンスの分類

私の最近のセミナーでは、エクイティファイナンスを4象限に分類。
横軸に私募と公募。
縦軸に資本的投資と投機的投資を置いて分類します。
私募と公募は金融商品取引法施行令で明確に分けられています。
株式の募集では、50名以上に勧誘するのが募集で49名までの勧誘であれば私募です。
一方、資本的投資と投機的投資は投資の性格の分類。
株は売って儲けるために投資をするというのが投機的投資。
これに対して、株主として事業を一緒にやるための投資、事業を応援するための投資が「資本的投資」です。

縁故増資と提携先への第三者割当増資

中小企業で例の多いのは、親戚や友達が出資する「縁故増資」。
売ることを目的とした投資ではないので「資本的投資」です。
そして相手は少人数ですから私募です。
事業提携先に第三者割当増資を行うケースもやはり私募で資本的投資です。

VC投資とIPO

では、ベンチャーキャピタルへの割当はどうでしょう?
本来は、VCの目的は企業の成長支援。株主として長期投資を行うので、資本的投資のはずですが、日本のVCの多くは投資先を上場させて売却し売却益を得ることが目的であることから、「私募」で「投機的投資」でしょうか?
さて、日本の証券市場のIPOは、参加する投資家の圧倒的多数が個人の投機的投資家です。
公募で買う方の大多数は、初値が付いたら売却をすることが目的です。

資本的投資を公募で集めるグリーンシート

これに対してグリーンシートは、「資本的投資」を「公募」で集めるのが特徴です。
金融商品の株に関心を持つ人を集めるのではなく、株主になることに関心をもつ人を集める。
地味ではありますが、そのような募集をグリーンシートは着実に行ってきました。
投機的投資から資本的投資へと潮流は変わったように思います。

『まんがグリーンシート入門』完成記念セミナー

『まんがグリーンシート入門』が完成。
1時間でグリーンシートの全てが理解できる本です。
「まんが」にしては字が多いでしょうか・・・?
非売品ですが、来年早々には、このタイトルで出版予定です。

完成を記念したセミナーを企画しました。

株式公開のあり方に一石を投じたグリーンシート

私の講演では、グリーンシートの歴史をご紹介。
1997年に未公開株式の投資勧誘制度としてスタートしたグリーンシート
当初の上場前のプレIPOの場としての性格から、成長を支える真の株主を募る場としてその特徴が鮮明になってきました。
グリーンシートをこれまでに利用した会社は150社ほど。
このうち9社がその後、証券取引所に上場。4社が上場企業との経営統合で上場企業になりました。
立派になってから上場するイメージの証券取引所に対して、株主の皆さんの力で立派な会社をつくりあげていくために株式を公開するグリーンシート
公開した後は、業績を伸ばす会社と、思ったように伸ばせない会社とに明暗が分かれるという側面もあります。

非公開化も経営戦略としての選択肢

今年は特に、厳しい経済環境下です。
業績が悪化した企業は、監査報酬を含めて数百万円程度のグリーンシートの維持コストが負担できずに公開廃止という企業も少なくありません。
公開しやすく退出もしやすいのがグリーンシート
株主総会の特別決議を経て株主がコストダウン等の目的に納得すれば非公開化も経営戦略の一つです。
金銭的なリターンを投資の目的とする新興市場の新規上場とは異なり、資本的投資の株主を募るグリーンシートだからこそできることです。
業績悪化企業の非公開化により、結果的には業績を伸ばす会社だけがグリーンシートに残ります。
会社と事業に共感し一緒に会社を伸ばしていただける株主を募るグリーンシート
大切なのはこの制度をより多くの企業経営者に知っていただくこと。
『まんがグリーンシート入門』で少しでも多くの中小企業経営者に、グリーンシートに共感をいただければと思います。

グリーンシート公開企業の本音トーク

私の講演に続いて、パネルディスカション。
パネリストは、名学館の佐藤社長、アイジーコンサルティングの井上社長、アメニティの山戸社長の3名です。
会場は満席の40名。
グリーンシートについて本音トークということで、今後の課題も含めて討論です。
会場からも様々なご質問。
これからグリーンシートを準備しようとしている経営者の不安に3名から明快な回答。
グリーンシートに解決すべき課題はあるものの、会社の経営にはプラスになることが多く、満足度は高いことが良く伝わったように思います。

グリーンシートは株価形成に課題

課題としてあげられたのは株価形成の方法です。
流動性が低いだけに、ほんの少しの売り買いの注文で、株価が大きく変動してしまうことがあります。
一般の証券市場のように売買注文に基づいてリアルタイムで株価を変動させる意味があるかどうか、検討する必要があります。
そもそもグリーンシートの制度は、証券会社が責任ある立場で気配を継続的に公表する仕組み。顧客の注文による価格を気配とするのではなく、適正な評価額を気配として公表するのが本来、専門の証券会社の役割でしょう。
これは、来年に向けてディー・ブレイン証券として工夫した実行するだけで、十分、解決ができる課題です。

事業戦略と資本戦略の一体化の強み

グリーンシートについて評価の高かったのは、事業戦略と資本戦略の連動性。パネリストの中では、アメニティと名学館がグリーンシート募集でFC加盟店の多くが株主として参加。山戸社長からは、株式公開で本部の透明性が高まりFC加盟店からの信頼が強まったと評価。佐藤社長からは、株主となるかどうかで加盟店の本気度が把握できるとの評価です。
そしてシロアリ駆除の先駆者「井上白蟻研究所」として創業し、社歴100年になるアイジーコンサルティングの井上社長からは、社会に役立ち社会から支えられる会社こそが永続できること、そしてそのためにグリーンシートは重要なインフラであることを語っていただきました。

グリーンシートに公開している経営者の声が、少なくとも今日のセミナーに集まった方々には高らかに響いたように思います。

下請け中小企業にチャンス到来。

鳥取の元気企業

鳥取に出張。
47都道府県の県庁所在地で唯一、訪問していなかったのが鳥取です。
人口60万人と、日本で最も人口の少ない県でもあります。
大手自動車メーカー系列の部品メーカーを主要取引先とする研磨加工のY製作所を訪問。
エンジンのカムの円形部分の研磨に優れた技術を持っています。
これまではメーカーの注文を納期に納めるだけで精一杯でったのが、自動車の生産調整で受注が激減。
そこで初めて積極的な営業活動を行ったところ、家電メーカーからマッサージチェアの駆動装置における研磨の業務を受注。
自動車部品の製造で培われた高い技術が評価されたのです。

中小企業は「営業活動」にチャレンジ

これまで技術力ある中小企業は、大手メーカーの下請け・孫請け構造の中で、得意先を広げるなどということは考えようもなかったのです。
大手メーカーとしては仕事で縛ることによって、実質的には技術を独占してきたともいえます。
それが、この不況によって環境が激変。
売上の100%を特定の大手メーカーに依存してきた技術力ある中小企業にとれば、下請構造から脱却して顧客を拡大するチャンスです。
世界に誇るわが国有数の大手メーカーが評価して仕事を委託する技術力を持っているのですから、しっかりとその技術力が伝われば、採用したいという企業は間違いなくあるのです。
必要なのは、その技術力を伝える活動・・・すなわち「営業活動」です。
大手の下請けに甘えてきた中小企業は、営業活動をしたこともない会社が多いのが現実。
どう営業していいかわからないという経営者もいますが、営業は「自らの技術を知っていただき、相手のニーズに提案する」という単純なこと。
売上回復をただ待つだけの中小企業と、果敢に営業をする中小企業とで、今まさに、大きな差がつく時なのです。

シェアドオフィスを開設

ディー・ブレイン証券のオフィスのある茅場町の稲村ビルにシェアドオフィスを開設しました。
机1つ2万5千円で茅場町駅0分にオフィスが持てるということで、そこそこの引き合い。
M&Aコンサルタント等、当社とのシナジーが見込める会社も少なくありません。
定員は10机。
ご一緒に仕事ができる多くの仲間が増えることを期待したいところです。